妻を買った億万長者です。

ビクトリアは震える指で、別居中の夫アレクシスに電話をかけた。
夫とは七年も会っていない。
浮気をしたと疑われ、汚い言葉を投げつけられて以来だ。
でも、もう潮時だ。
別れなければ。
久しぶりに聞いた夫の声は、敵意とあざけりに満ちていた。
離婚するつもりはないが、彼の住むアテネまで頼みに来れば、少しは寛大になれるかもしれないと言う。
横柄な態度は相変わらずだわ。
でもほかに方法はない。
ビクトリアは少ない所持金をはたいて航空券を買い、夫の待つアテネへと飛び立った。
名門マーサー家に十年ぶりに現れたケインは、すっかり洗練され、傲慢さを漂わせる男性になっていた。
いまごろ、何をしに来たのだろう? ブライオニーは、使用人の息子だった彼の訪問に戸惑うと同時に、その目に宿る邪悪な光を認めておびえた。
ケインは、マーサー家の財産はいまや自分のもので、犯罪行為に手を染めていた両親を刑務所送りにされたくなければ、彼の妻になれと言う。
驚きのあまりブライオニーは絶句し、ケインの口もとを見つめた。
そこに残る傷跡こそ、彼への愛と憎しみの原点だった。
テレビに映る父の姿にリビーは驚愕した。
父は死んだと聞かされていたが、実際は俳優として成功を収め、もうじき開催されるカンヌ映画祭に出席するというのだ。
リビーはすぐさま、父の契約する芸能エージェンシー経営者マークに連絡を取り、父に会わせてほしいと訴えた。
するとマークは、カンヌでの面会を約束してくれたものの、その前に二人でディナーをとろうと持ちかけてくる。
困惑しつつカンヌに降り立ったリビーを待っていたのは、マークの辛辣な言葉だった。
「それで、君はいくら欲しいんだ?」オーロラ市警の刑事、テリーはいつまでも心を開かないパートナーにもどかしさを募らせていた。
ハンサムで寡黙なホークは、刑事としては優秀だが、彼女が話しかけてもろくに返事をしない。
そのうえ、ほがらかなテリーを心底嫌っているらしい。
「きみと親しくなるつもりはない」ある日のこと、彼のいつにもまして冷たい言葉を聞いた瞬間、テリーは想いを抑えきれなくなった。
これが最初で最後のキス。
彼女は思いきってホークにキスをした。
婚約者の待つ教会に向かうリムジンのなかで、花嫁姿のケンダルは孤独を噛みしめていた。
幼くして父に去られ、つい最近母も病に奪われた。
身寄りも財産もなく、平凡な事務員として働きつづける……。
そんな生活に絶望して私は愛のない結婚を決意したのだろうか? ときに薄情とさえ思える婚約者との未来を暗示するかのように、激しい風雨が吹きつけ、車が急停止する。
場違いな轟音に外を見やった瞬間、ケンダルは目をみはった。
ヘリコプターからたくましい男が降り立ち、まっすぐ向かってきたのだ――まるで獲物を見つけた狼のごとく目を光らせて。
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